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映研部の部活動が再開された。
そして配役の発表があり、絵里衣役には本谷真知子が当てられた。
そんな様子を苦々しい顔をして横目で見ながら、大門警部補は証拠集め、目撃者捜
「梅本君、一緒に帰ろ」
竹田女史が部員達を部室に集め、事件は解決していないし、犯人の意図するところ
も判らないが、もし、その意図が映研部の部活の妨害であるなら、ここで部活を中止
する事は犯人の思惑に屈した事になるし、部全体に遺恨を残した事になってしまう。
高校教育の一環である部活を犯罪によって中止させられてしまうのは教育者として
納得出来ないし、さらに、映コンでグランプリをという意欲も、あるし、周囲の期待
も裏切る訳にはいかないので、あえて再開に踏み切る事にしたと説明した。
強気の竹田女史らしい意見だった。
殺人事件の容疑者にあげられた生徒を被害者のやっていた役につけるというのはど
うかと言う意見もかなり出たが、周囲から疑われているからこそ、我々は本谷真知子
をその役につけ、信頼しているところを見せなければならない。 疑いがあるからと
言って部活から外してしまったりすると、周囲にも本人の為にもならないと竹田女史
が力説し、本谷真知子の絵里衣役が決まったのだった。 本来、本谷真知子の役だっ
た未知留役には幹絵役の上山朱美が入り、幹絵役には、演劇部ではない国領香代子が
助監督兼任で入る事になった。 もともと外様を主役に据えている演劇部であるから、
いまさら国領香代子が入ったところでどうという事はない。
早速、本読みが始められ、キャラクターの演出が入れられてゆき、平行して、ロケ、
リハーサルも進められていく。
事件で中断していた分だけスケジュールに遅れが出ており、それを取り戻す為に連
日遅くまで居残り、撮影が進められていった。
しに奔走していたが、全く新しい事実は出てこなかった。
遅くまでの練習ですっかり陽の落ちた帰りがけに、本谷真知子が声をかけてきた。
「ああ、帰ろうか」
梅本はディバッグを肩に引っかけながら応える。
「あの人達、また来てるね」
「誰?」
「警察」
「毎日来てるよ、ご苦労な事に」
「嫌なんだ。 私の事、いろいろ聞いて回ってるの」
「どんな事?」
「私の男関係」
「興信所みたいだな」
梅本は軽蔑をこめた苦笑いをして、言った。
「私の家の近所でも聞込みをやってるの。 このごろ近所の人達にじろじろ見られ
るのよ、もう。 親には心配顔されるし、本当に迷惑やわ」
「連中の仕事なんだからしかたないよ。 放っとけばいいさ」
「おかげで最近は男の子と話も出来ないの」
「僕と話してるじゃない」
「梅本君はいいの」
「どうして? 益々疑われるよ」
「パートナーだもの」
「劇のだから、それはそうだけど」
「それ……だけ?」
「…………」
二人並んで校門を出た。 最近はもうレポーターもカメラマンも校門前に待ちかま
えている事はない。
「大変だね、疑われて」
「ほんと、もう大変」
「でも、どうして男関係なんかを調べてるんだ?」
「うーん、警察はね、私と梅本君とが以前から交際していて……あの……関係があ
ってね。 うまくいっていたところに小沢さんが途中から割り込んできて、二人の間
を裂いて、梅本君を横取りしたって言うのよ。 それで私が嫉妬のあまり、小沢さん
を殺したって考えてる訳。 だから、私と梅本君が以前から交際してたっていう証拠
を捜してるのよ。 それと、梅本君以外で私と小沢さんとが共通で親しかった男の子
はいないだろうかって調べているみたいなの」
「ふーん、まあ、以前からの関係っていうのは無いから、いくら調べられても心配
無いけど、今こうして親しくしてるのはやっぱりやばいんじゃない? ひょっとした
ら尾行されているかもしれないし。 いらん事で疑われても困るだろ」
「他の男の子との関係で疑われるのは困るけど、梅本君とだったら……いいな。
私、本当に犯人じゃないんだから」
「…………」
「あのね、もし、今からね、私と梅本君が本当に付き合いだしたとしたら、また重
要容疑者って言われるのかな?」
本谷真知子は梅本の目を見つめて言った。
「そんな事ないよ。 そりゃ、あの天邪鬼みたいな刑事にかかりゃどんな事しても
疑われるだろうけど、大丈夫だよ。 それに、疑われても君さえ平気だったら何て事
ないさ」
「そうよね。 それに、梅本君との事でだったら、平気なの、周りで何言われても」
「…………」
「梅本君は困るの?」
「困らないよ、平気」
「本当?」
「うん」
「……良かった」
本谷真知子はさりげなく、腕を梅本の腕にからませた。 梅本もそのまま肩を寄せ
るようにして歩き、警察はうるさいけれど、この子とだったらつき合ってもいいなと
いう気になってきた。 刻緒役もうまくやれそうだと思った。