〈39〉




 3

梅本を除く映研部、演劇部の残り全員と、竹内が職員室に集められていた。
職員室隅のミーティングテーブルの前に全員座って、一人ずつ会議室に呼び出される
のを待っている。

短期間に学校内で四人も襲われ、うち三人までが殺されたという惨事がありながら、
今だに犯人の手がかりどころか、殺害の方法すら解明されない。 初動捜査をしくじ
ったという思いが成田刑事にあり、今またふりだしに戻って、関係者の聴取を念入り
におこなっていこうという事で、急遽、映研部関係者達が集められたのだった。
会議室の中では成田刑事と、やはり府警から来た山神刑事の二人で聴取にあたってい
た。
大門警部補のように独断的な物の見方をし、大声で恫喝して相手を押えつけてしまう
タイプが聴取にあたったのでは、多感な高校生相手にはまともな聴取が出来ないと見
て、警部補の同席は御遠慮願っていた。
大門警部補はそんな成田刑事の指示を受け、手柄を独り占めにする気か、と怒鳴り散
らしていたが、成田刑事は一切無視して捜査を進める事にした。

一人ずつ順番に会議室に入って行く。
アリバイの確認と動機、梅本に関する感情、それに、他の部員達の中に不審な行動を
見なかったか等、事細かに聞いていった。
話術巧みな成田刑事はかなり突っ込んだ返答までも聞き出していたが、それでもまだ
核心には触れられない。
さしもの成田刑事にも焦りの色が見え始めてきた。
外で待たされている部員達は不安そうな顔をしながらも猜疑と好奇心の入り混ざった
目を同じ部員達に向けていた。

「竹内君、電話が入ってるわよ」
学校事務の女事務員が竹内を呼びに来た。
校外から生徒宛に電話がかかってくるのは珍しい。 よほど家族に緊急の事態が発生
しない限り、無い事なのだ。
竹内は何事かと近くの机の上にまわされた電話を取った。
テーブルを囲んで座っていた部員達が揃って目を向ける。
「もしもし?」
「竹内か、俺や」
電話は竜崎からだった。
「なんや、どこにおるんや、おまえは。 家にも帰らんと」
「そんな事どうでもええんや。 竹内、大事な事や、よう聞いてくれ」
「あ?」
「そばに刑事らはおるか?」
「ん? いや、おらんが」
会議室の中にいるのだが、見えなかったので、その通りに答えた。
「ええか、俺は今、彦根にいてるんや。 すぐに戻る。 俺が戻るまで、刑事らに知
られんように国領を監視しといてくれ。 いや、捕まえといてくれ。 絶対、どこへ
も行かさんように」
ここで竜崎は重大な過ちをおかしてしまった。
その場に刑事達のいるいないは尋ねたが、国領香代子がそばにいるか、とは尋ねなか
った。
まさか放課後の職員室に生徒がいるとは思わなかったのだ。
「え? 国領? 国領がどうかしたんか?」
竹内は声に出し、ご丁寧に、聴取を待っている国領香代子に視線を投げかけてしまっ
た。
途端に、それまで涼しい顔をして竹内を見ていた国領香代子は音をさせて立ち上がり、
片頬を引きつらせ、目を吊り挙げて後ずさった。
職員室扉を後ろ手で開けるや、脱兎のごとく飛び出した。
「あっ、ちょっと待て、国領!」
「竹内! どうした!」
「え? いや、国領が」
「! そこにおったんか?!」
しまったあっ!。
竹内のわずか一言ですべてを察知した国領香代子は逃げだした。
竜崎は自分の軽率さを呪った。
「竹内! 追いかけろ! 捕まえるんや! 刑事らに知られんように! 早う!」
竜崎は電話器に向かって大声で叫んだ。
冷汗がにじみ出した。
受話器を叩き置き、一目散に駆け出す。
早く戻らなければ。
なんとしても刑事達が気づく前に!!
竜崎はひたすら走った。


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憂想堂
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